報道から自分たちのあり方を見直す
このところ、政治家や政党と特定の宗教団体およびその関連団体との関連について、メディアで報道されています。宗教絡みでなくても、人の悩みや苦しみ、迷いなどを巧みに利用するカルト的な団体はほかにもありますし、マルチ商法を行なう組織などもあります。NPOは、これを他人事として見ているわけにはいきません。NPOの活動にも関わりをもってくることがあるからです。
対象は「人」ではなく「行為」
NPOとして、理事やスタッフ、ボランティア、イベント参加者や寄付者などにどのような宗教を信じているかを訊ねたりすることは、憲法でも保障されている宗教や信条の自由もあり注意が必要です。ただ、活動中あるいはその前後などで、その人のどうやらカルト団体の活動に誘われて困っているという報告があったりしたら、NPOとしてはそのような勧誘行為をやめるよう伝える必要があります。それでもやめない場合は、活動からはなれてもらうよう、伝えないといけないこともあるかもしれません。宗教の勧誘だけでなく、特定の政党や候補者への支持や投票を呼びかける政治活動や前述のようなマルチ商法なども同様です。
ここで重要なのは「あの人は問題があるから去ってもらいたい」と「人」を対象にしないことです。これでは自分たちに「都合が悪い」活動をする人を追い出すために画策しているととらえられかねません。活動の場から「退いてもらう」あるいは最初からお断りすることは、多様な人々の社会参画の場を提供するという意味では、本来は望ましいことではありません。しかし、社会的にも経済的にも、不安や困難、生きづらさを感じている人たちが関わる活動など、NPOが関わる人にはさまざまな配慮が必要なことが多くあります。その配慮ができなくなる「行為」は何かを考え、基準をもうけることが大切です。
まずは自分たちが活動しているNPOのミッションや大切にしている価値とは合わない活動、関わる人たちを危険や不安にさせる行為などについて、洗い出してみてください。特定のカルト宗教やマルチ商法団体への勧誘だけではありません。暴力的言動や虐待、つきまとい、個人情報やプライバシーの侵害など、いろいろな可能性を考えてみてください。そしてそのような行為を未然に防ぐ方法や発覚した場合の対処などを考えます。面接や連絡・相談のルートの整備、基準の明文化や日ごろのコミュニケーションのあり方などを見直してみましょう。
金銭的な支援についても考える
寄付や会費といった金銭的な支援のなかにも、基準が必要です。以前お話をうかがったNPOでは、社会的にも注目された犯罪で有罪となり服役している人の弁護士を通じて、多額の寄付の申し出を受けたというケースがありました。あるNPOが、活動分野とは摩擦がある活動をしている企業からの寄付の申し出を受けるかどうかで、そのNPO内で問題になったこともありました。
基準を整備するうえで、たとえば:
どういうお金は受け入れられないのか
- なぜ、だれに対して受け入れられないと考えるのか
- 受け入れることのリスクは何か
- 受け入れることによって「できる」ようになることは何か
- 社会的にどう見られるか(評判、信頼のリスク)
- 内外からの質問や批判にどう対応するのか
- 寄付等を受け入れたり、受け取った寄付を返金したりする際の手続きをどう構築するか
などの点について、組織内で十分話し合いましょう。このとき重要なのは、最初から結論ありきではなく、まずはさまざまな考え方を出してみることです。
多方面からリスクを感じとる
このように、一見自分には関係なさそうなニュースからでも、組織のあり方を見直すチャンスは転がっています。なんにでも敏感に「大変だ!」と過剰反応をするのがよいわけではありませんが、情報アンテナの感度をあげておくことは「想定外」を減らすリスク・マネジメントにつながります。「私たちは大丈夫かな」と考える習慣を身につけるようにしてみてください。
みなさんがカルト団体ではないかと疑われるリスクもあります。これに関しては「私たちはカルト団体ではありません」と宣言してみたところで、効果のほどはよくわかりません。着実な活動や必要十分な情報公開に努めることが、まずは対処の第一歩となると思います。この「着実な」や「必要十分な」というのも、一つの正解があるわけではありません。他の団体の事例を参考にしたり、みなさんと活動をともにしていない家族やお友だちなどにみなさんのウェブサイトや会報などを見てもらって、感想やアドバイスをもらうのもおススメです。みなさんと「違う世界」にいる方の視点からの率直な意見は、ときに新たな気づきをもたらしてくれると思います。
(中原)