『長崎の郵便配達』

ドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』(川瀬美香監督作品)を観てきました。

The Postman of Nagasaki(日本語で「長崎の郵便配達員」という意味)を執筆したピーター・タウンゼント氏(1995年没)の娘であるイザベルさんが、ピーターさんの著書や、ピーターさんが長崎を訪れたときにカセットテープに録音などをもとに、家族とともに父の足跡をたどり、長崎で被爆した谷口稜曄(すみてる)さん(2017没)との出会いがピーターさんに与えた影響や、長崎の町並み、原爆の威力などを感じるようすを収めています。

ピーター・タウンゼントさんは、オードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックが演じた、ある王女と新聞記者との1日と恋を描いた『ローマの休日』のモデルになったといわれ、第二次世界大戦中は英国空軍大佐として英雄と称えられた方です。戦後、世界を旅したピーターさんは、長崎で谷口さんに出会い、当時16歳の谷口さんが郵便配達の仕事をしていた1945年8月9日被爆し背中などに大やけどを負ったことや長崎の状況を知り、このようなことは二度と起きてはならないと、The Postman of Nagasakiを執筆しました。

谷口さんのお名前やお顔を知らない人でも、彼が原爆のために大やけどを負った背中の治療を受けている映像や写真を見たら「あの方か」と、分かるかもしれません。背中の治療のため長い間うつ伏せのまま過ごさざるを得なかった谷口さんの胸はひどい床ずれを起こしてしまいました。その結果、肋骨の間から心臓が動くのが分かるほどだったそうです。

谷口さんは国連でもスピーチをされるなど、原爆や核兵器のない社会の実現をうったえていらっしゃいました。

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第二次世界大戦において対立する立場にいた英国の英雄と日本の少年が戦後出会い、友情をはぐくみ、どちらも戦争反対の立場で発信していたことには、大きな意味があると思います。また、イザベルさんが谷口さんのお子さんを訊ねてお二人の様子を聴いたり、稜曄さんの精霊船(亡くなった方の霊を見送るために初盆に精霊流しのときに造る)を関係者の方々と一緒に引いたり、精霊流し会場で見知らぬ人と言葉があまり通じないながらもお互いの友好的な気持ちは伝わっていて、ピーター・タウンゼントさんと谷口稜曄さんの間に生まれ、育まれた友情や平和への願いは、次の世代に引き継がれていると感じました。

映画の中で流れるピアノの音楽も美しく、戦争や長崎への原爆投下という強烈なできごとがありながらも、私たちは人間として、どこか良心や広い意味での愛情というものを、取り戻したり新たに育てたりできることを感じ取れました。それは、原爆で壊された長崎のまちが復興し、人々の生活の営みの灯りがひとつひとつ、灯されていったような、そのような風景まで、想像させてくれます。谷口さんをはじめ、長崎で原爆の被害に遭われた方々のことを思うと心が締め付けられますし、戦争はしてはいけないと思うのですが、映画を観終わった後は、不思議な清涼感がありました。

しかし、清涼感を得て終わりでは、この映画をただ「消費」したことにしかなりません。この映画の話や他の平和に関する映画や書籍などについて周りの人と話したり、戦争や差別に反対する気持ちをもって選挙で投票したり、平和活動に取り組むNPOなどに寄付や勉強会に参加するなどの形で支援するなど、できることはいろいろとあります。私もこのように細々ながら発信したり、周囲に「映画観てきたよ」とSNSのチャットやビデオ会議などで「お会いする」方々に近況報告の際に話したりしています。

『長崎の郵便配達』は、全国的に多くの映画館で上映されているわけではありませんが、いまの世界情勢や核の脅威などを考えると、この映画をいま観る意義は大きいと思います。

(中原)

参考:

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