ソーシャルメディアのリスクをあらためて認識する

ソーシャルメディア

ニュースサイトのZDNet Japanが、登録ユーザーで、従業員1,000名以上の企業に所属する146名に対して実施したweb調査結果を発表したという情報がありました(【大手企業におけるSNSリスクマネジメントの実態調査】、2022年8月3日発表)。

この調査によると、アルバイト等を除く全社員にSNSに関するリスクへの理解を促す研修等を実施していると答えた割合が80%近くにのぼっているとのことです。アルバイトスタッフにまで対象を広げて実施している企業は10%未満でした。またSNSリスクとしてとくに意識しているのは「関係者からの内部告発・情報漏えい投稿」(63.0%)そして「従業員による不適切投稿(バイトテロ等)」(60.0%)が圧倒的に多く、3位の「品質不良など顧客からの製品に対するクレーム」(32.2%)を大きく引き離していました。

さらに、これだけの規模の企業でも、SNSを監視・対応する体制を24時間365日確保することや「リスク判断ノウハウがない」などの課題を感じていることが分かりました。担当部署・者を決めたり、外部支援も得ながら様々な対策が取れそうな企業でも、リスクへの対応に限りがあると感じるのは、SNSに関するリスクに限りません。

ソーシャルメディア(TwitterやFacebookなどのSNSだけでなく、ブログやYouTubeチャンネルなどをあわせて、ここではソーシャルメディアという名称を使いたいと思います)は、NPOにとっても活動を広く知ってもらったり、その結果、活動への参加者が増えるチャンスがあるなど、活用したいメディアではありますが、一方でリスクがあるのは企業と同じです。

学校が夏休み期間に入り、行動制限がない久しぶりの夏活動を実施するというNPOも多いのではないでしょうか。ボランティアスタッフとして活動する学生や、活動に参加する学生、夏休みを利用して活動に関わる社会人など、普段からみなさんの活動に関わっている人がさらに参加の頻度を上げたり、初めて参加する人が増えたりするのも、夏休み期間中ならではの特徴です。なかには、1回限りの参加で終わってしまう人もいます。

普段関わらない人も関わることが多い夏活動の時期の今だからこそ、ソーシャルメディアに関するリスク・マネジメントについても、ぜひ、意識を高めていただきたいと思います。

ソーシャルメディアのリスク

企業と同様、NPOにとっても、ソーシャルメディアのリスクとしては、たとえば、人権侵害、炎上、誹謗中傷などがあげられます。内部告発や情報漏洩、スタッフや理事、ボランティアなどによる不適切投稿などは、対象になった人や組織への被害や、団体としての信頼失墜などのリスクにつながります。また、団体公式のアカウントによる発信でも、採用した言葉遣いなどで誰かを批判したり見下したりしていると判断されて炎上してしまうリスクもあります。冗談で笑わせよう・喜ばそうと思った発信が思わぬ批判を受けることもあります。

活動のようすを支援者や関係者に広め、活動に関わる人を増やすためにも、文字情報にくわえ写真や動画なども発信できるSNSはとても有効なツールです。しかし、自分たちだけでなく、自分たちの活動に参加したり支援したりしてくれている人たちや、自分たちがとくに支援したい人たちを傷つけるリスクについては、十分注意し、対策を取る必要があります。「とってもいい活動をしている」と発信したくて、参加者や利用者のプライバシーや個人情報を晒し、安全を脅かすリスクもあります。自分が関わっている活動がとても素晴らしいから広く伝えたいと、公表していない活動場所をボランティアスタッフが発信してしまったという事例も、かつてありました。

また、ソーシャルメディアで発信された活動の感想などのなかには、何か不満があったことを述べたり、さらには「あの団体の活動には関わらない方がいい」など主張したりする書き込みがあるかもしれません。自分たちの団体や活動、関係者に関するネガティブな情報がソーシャルメディアを通じて発信され、自分たちの活動や活動に関わっている人に影響するというリスクもあります。

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ソーシャルメディアへのリスク対応例

このようなリスクへの対応例として、たとえば、以下のようなことが考えられます。

  • 自分たちの団体として、また理事やスタッフ、ボランティアなどの内部関係者に関して、ソーシャルメディアを利用するガイドラインを構築し、適用する
  • ソーシャルメディアに関わらず、活動に関する守秘義務や秘密保持に関する同意書や誓約書を交わす(あるいは、すでに同意書等がある場合は、ソーシャルメディアを通じた発信にもついても含める)
  • ソーシャルメディアの活用に関して、外部研修を受講したり、関係者内で詳しい人を招き内部研修を実施する
  • イベントの参加者や短期間・単発・不定期ボランティアなどにも伝わるよう、その日の活動の最初や実施時、終了時にもソーシャルメディアへの投稿についての注意喚起を行なう
  • 自分たちの団体や活動、関係者などに対する誹謗中傷的なコメントがないか、定期的にネット検索(「エゴサーチ」)を実施する

ほかにも、活動の性質や参加者の属性にもよりますが、「活動中の撮影担当者を決め、その人たち以外の撮影はお断りする」という方針もありえます。自分や自分と一緒に来た人以外の撮影をお断りするというのも、他人のプライバシーが侵害されることを防ぐ一案です。

ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインは、

ソーシャルメディア SNS ガイドライン ポリシー 

などのキーワードを組み合わせながら検索してみてください。これに「NPO」を追加すると、関連した方針を公表しているNPOや、NPO向けのソーシャルメディア対策講座情報が得られます。ただ、企業のガイドラインはNPOの参考にはなりますが、NPOの組織形態や性質から考えても、そのまま適用することが適切とは限りません。NPOどうしでも、活動の内容や組織の形態、関わっている人の属性や人数等、リスクの内容やリスクの影響の大きさは団体によって異なります。一般的なテンプレートや、別の団体のリスク・マネジメント方法をそのまま持ってきても、自分たちが直面するリスクには対応しきれないことはご理解ください。

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完全な「管理」はムリ

様々な人が参加するNPOで、イベントに参加した人や単発のボランティア活動に参加した人の言動を「管理」することは、ムリだと思います。ただ、団体として守るべき人の安全を脅かす発信については対応していく必要があります。また、関係者の不用意な発言は避けられるように、日ごろからのマネジメントが重要です。

自分たちの活動に関する批判的な情報発信のすべてが誹謗中傷なわけではありません。活動への不満は、ときには自分たちの活動への改善点を教えてくれます。ただ、執拗な団体や団体関係者の個人に対する批判・非難は、その内容や頻度などによっては、情報開示請求等、なんらかの行動に移す必要があるかもしれません。基本的には、いちいち対応するのではなく、自分たちの公式の情報発信手段で粛々と自分たちの活動や想いを発信していきつつ、「アンチ」の活動を把握しておくのがよいと思います。ただ、冒頭で紹介した調査結果にもありましたが、常時監視・対応することは大企業でも困難です。

ソーシャルメディアでの自分たちに関する発信を、完全に「管理」することはムリですし、現実的でもありません。ただ、何も把握していないよりは、定期的にエゴサーチすることをお勧めします。

新しく、古い問題

実は、ソーシャルメディアという比較的新しい情報発信ツールを取り上げているので新しい問題にとらえられがちですが、ここで述べてきた論点は、ソーシャルメディア以前にも、ブログやウェブサイトなど、インターネット上での情報発信でも問題にされてきたことと共通する点もあります。ここであげたソーシャルメディアに関するリスクは、新しくて古い問題でもあるのです。ただ、ソーシャルメディアの場合、いったん発信された情報は(「デジタルタトゥー」という言葉もありますが)完全な削除が難しいことや、画像などが全く異なる形で悪用されることもあるといった、インターネット特有の課題もあります。

また、国内での活動には個人情報やプライバシーについて敏感になっても、海外での活動になると意識が切り替わってしまうケースも見受けられます。教育の機会充実や生活困窮からの脱出などの支援が必要な人の顔や情報を出すことで「顔が見える」と支援が得やすくなるかもしれませんが、NPOとして、自分の管理できない場所で思わぬ形で使われたり、自分の顔写真などがこのようなメッセージとともに日本で拡散されていたのかと知りショックを受けるなど、自分たちが支援すべき人を傷つけることになるリスクについても認識しておくようにしましょう。

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(中原)