衝撃的な事件とNPOのリスク・マネジメント

先週8日(金)、遊説先で安倍晋三・元首相が襲われ、残念ながら急逝されました。心から哀悼の意を表します。また、遺されたご家族にお悔やみ申し上げます。日本だけでなく世界的にも衝撃的で悲しいニュースとして取り上げられました。

私がこの事件を知ったとき、その内容にしばらく自分の理解が追いつきませんでした。1週間経った今も、心のざわつきを感じます。SNSでは、事件直後から、直接は関係のない人や集団への非難などを目にしました。たとえば、安倍氏の政策への批判などが今回の事件をひきおこすきっかけになったという意見などです。

ある政権や政策のもとで不利益を被っている人がいることを伝えたり、それを理由として批判したり異なる意見を述べたり、違う案を提案したりということ自体は、民主主義において批判されたり抑えつけられたすることがあってはいけません。様々な角度から政治や社会に関する問題を検討することは、生きにくさを感じる人が少なくしたり、人が社会や政治に関わる機会を増やしたり(あるいは保障したり)ことにつながります。これはNPOの活動として、とても大切な要素です。

このような大きな事件や事故、災害の際、NPOにいきなり批判・非難の矛先を向けられることがあります。本来自分たちが関係していない案件に関するリスクから自分たちの組織や組織に関わる人たちを「守る」ために、NPOとしてできることについて、いくつか考察してみたので、そのうち4点について、以下に紹介したいと思います。

配慮して情報を共有する

まず、大きな事件等の場合は、報道やSNSの内容を共有することも多いですが、時にはその共有が辛い人もいます。その辛さが外に出にくい人もいます。とくに自分たちの活動に直結する問題でなければ、関係者内での共有は本当に必要なことか一瞬立ち止まって考えてみましょう。また、自分が辛いときは深呼吸し、事件に関する情報共有のメッセージだったらしばらく読まないなどの形で自分を守ることも大切です。

発信する情報の信憑性を確認する

大きな事件や事故、災害の際には、さまざまな情報が飛び込んできます。衝撃的で他人にすぐ伝えたいと思う情報のなかには、信憑性が低いものが含まれていることがありますので、個人としてもそうですが、NPOとしても誤情報(misinformation)・偽情報(disinformation)の拡散に手を貸さないよう、注意が必要です。「〇〇(政治家や政府機関、著名人など)がこう言った」という情報でしたら、なるべくその情報源となった人や機関の発信を確認します。それでも結果的に間違っていたということもあるので、その場合は訂正の発信も忘れずに行ないましょう。

誤情報や偽情報の定義については、たとえば先月総務省が「インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~」と題した資料を作成・公表していますので、参照してください。誤情報は間違っているものの誰かに害を及ぼす意図はなかった情報で、偽情報は人や集団などに害を及ぼすために作られた、悪意のある間違った情報を言います。これについては、ユネスコ(UNESCO)のサイトでも定義が紹介されています(英語)。悪意がない情報も、それを受け取った人が利用して偽情報になることもあり得ますので、できる限り情報確認の努力をしたり、確認が取れなかったり信憑性に疑問をもったら共有しないようにしましょう。

実は昨夜(日本時間の午前3時から!)、誤情報や偽情報と闘うためにNPOや社会をより良くする活動に関わる人たちは何ができるかというテーマのアメリカで開催されたウェビナーに参加したばかりです。いかに、誤情報や偽情報がアメリカでマイノリティの権利や尊厳を奪うために戦略的に利用されているかということや、それに対して何ができるかという話を聞き、学び多いウェビナーでした。これに関連する話は、あらためて機会を見つけてお伝えできたらと思います。

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謂れなき非難や中傷には、訂正と記録で対抗する

特定の個人やNPOに対して、そのような「批判」が向けられることも考えられます。

たとえば、みなさんのNPOに「お前たちが安倍氏の政策を批判していたから、こういう事件がおきた」という批判などが、手紙やファックス、電子メールやSNS、メッセンジャーなどで来ることが考えられます。このようなメッセージの1つ1つに「回答」する必要はありません。異なる意見や批判する意見の議論から社会の様々な問題への解決・改善方法を話し合うことは大切であり、暴力や犯罪を煽動した事実はないことなどを簡潔に述べたものを、組織としてウェブサイトやSNSなどで発表することは1つの対処方法です。いかなる暴力も認められないという声明を出してもよいと思います。

「NPOなのに政治活動をしている」と批判されたら、内閣府のウェブサイトなどを引用し、自分たちの活動は、特定非営利活動促進法(いわゆる「NPO法」)で禁止されている特定の政治上の主義の推進・支持、反対などを目的とした活動といった政治活動等とは異なる政策提言活動であることを説明してください。(認定NPO法人にはまた別の規定があります。また、任意団体はこのしばりを受けません。)

さらに、送られてきたメールやメッセージを保存・記録しておくことは大事です。送信者(IDやハンドルネームなども)や送信日時などが分かるようにし、相手が削除しても残るよう、画像等の形でも保存しておきます。同様のクレームを繰り返してくる場合、誹謗中傷や脅迫、業務妨害にあたるかもしれませんので、情報開示請求や弁護士や警察などへの相談の役に立ちます。協力関係にあるNPOなどにも、同様のクレームが来ているかもしれませんので、相談するのも一案です。

セキュリティの確認

NPOによっては、サーバへの不正アクセスなどを、情報を盗んだり改竄したりして活動を妨害や組織の信頼失墜の被害を受ける恐れがありますので、インターネットのセキュリティをあらためて確認し、必要であれば強化します。使用しているパソコンへのセキュリティ対策ソフトの最新版インストールや不審なメールのリンクをクリックしないよう、関係者に徹底することも必要です。人々が自由に出入りする場所での活動や、参加者・利用者がいる活動現場では、日ごろからの不審者対策を再確認・徹底させておくとよいと思います。NPOの場合、人が入ってきやすい環境や雰囲気を作りながら安全を確保しないといけないので、高度なリスク・マネジメントが求められていると、つくづく感じます。

私自身も、ツイッターアカウントなどを通じて、他の方の発信を引用・リツイートすることがよくあります。(リツイートする内容は必ずしもNPOリスク・マネジメント・オフィスとして賛同しているとは限りません。)このブログでも引用したりリンクを貼ったりしていることもあります。情報のスピード発信と信憑性確認の間で試行錯誤の繰り返しです。悩みながら、間違えたら訂正しながら、進んでいくのかなと、思います。日ごろの学びや情報収集で培われる「勘」のようなものも、あるかもしれません。勘は組織としてメンバー間で「標準装備」しにくいので、組織としてできることを考えてみました。

あらためて、今回のような事件は、世界のどこでも、二度と起きてほしくないと思いながら、この記事の執筆を終わりたいと思います。

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(中原)