「世界社会正義の日」とNPOの「雇用」での正義

月20日は、国連が定めた「世界社会正義の日(World Day of Social Justice)」です。「世界」と「社会」が並ぶとなんだか不思議な気がします。

「世界社会正義の日」は、2007年11月26日に国連総会で宣言されました。1995年3月にデンマークのコペンハーゲンで開催された「社会開発サミット」の目的に沿った国内促進を加盟国に求めたものです。社会開発サミットは「貧困、失業および社会崩壊」の3つの問題を中心課題とし、社会政策への新たな方向づけを行なうために開催されました。(『1995年世界社会開発サミット』←リンクをクリックするとPDF文書が開きます、国際連合広報センター、1994年)

今年の世界社会正義の日のテーマ

国連で制定した、今年の世界社会正義の日のテーマは “Achieving Social Justice through Formal Employment”です(国連のサイト)。つまり貧困と不平等の問題を、正規雇用を通じて社会正義を実現する、ということですね。

国際労働期間(ILO)によると、世界中で雇用されている人々の60%以上(20億人ほど)が、インフォーマル(非公式)経済で生計を立てているそうです。非公式経済とは、違法な就業ではなく、「法令上又は慣行上、公式の取決めの適用を受けていない又は十分に適用を受けていない労働者及び経済単位による全ての経済活動(不正な活動は含まない)」(同サイト)のことです。この状態を改善するために非公式経済から公式経済への移行をILOは呼びかけています。コロナ禍で、公式経済で労働に従事している人たちのなかにも労働状況・条件が厳しくなった方々も多いと思いますが、非公式経済のような統計に出てこず実態がつかめない環境に身を置く人たちのなかには、さらに脆弱な立場に置かれてしまった人もいるかもしれません。

最近メディアでもすっかり「おなじみ」になったSDGs(持続可能な開発目標)の目標8は「働きがいも経済成長も」と簡略に表現されますが、本来は「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する(Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all)」です(外務省のサイト)。

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NPOにおける「雇用」

有給スタッフにしても、2015(平成27)年の労働政策研究・研修機構の調査では、NPO法人の正規職員の平均的な年間給与額は約260万円です。平均ですので、勤務年数やその人がもつ専門性などによっても変わってきます。NPO法人によっても、状況は異なるでしょう。

NPO法施行前後では、社会保険や雇用保険に未加入というNPO(NPO法施行前は任意団体のみ)の有給スタッフは多くいました。あるいは、スタッフが自分ですべて費用を負担することでNPOに加入手続きをしてもらったりしている人もいました。現在も、全体的に見て課題はあるものの、当時から考えると、他セクターと比べて平均的な給与は低くても、雇用に関する整備はずいぶん改善されてきました。

NPOは、フルタイムやパートタイムの有給の従業員やアルバイトもいれば、(少しばかりの報酬が師は割れているケースもありますが、基本的には)無給のインターンやボランティアもいます。単発~数か月しか関わらない人もいれば、現在の有給スタッフの誰よりも長くボランティアとして活動に関わっているという人もいます。

ボランティアやインターンのように雇用契約を結んでいない人が活動や運営の中心的あるいは重要な役割を担うことは珍しくないことだけを見ても、NPOには多層的かつ複雑なマネジメントが求められることがわかります。

「働きがい」・「やりがい」という言葉の耳ざわり

すべてのNPOが社会課題の解決をうたって設立され、活動しているわけではありません。しかし、少なくとも自分たちが「社会的に問題になること」は避ける努力は必要です。また、雇用を確保することがNPOの最優先事項でもありません。社会に必要だと自分たちが思う活動を、少しでもよい状態で実施していくことがあくまでも重要で、そのために法律を遵守したり、社会的責任を果たしたりしていきます。また、議論が長くなるので今回は省略しますが「より質の高い」活動のために、ほしい人たちに職員やボランティアとして仲間になってもらえるよう、努力する必要があります。そして、職員としては退職したとしても、関わり方を変えて引き続き活動を支援してもらえるような関係を築くことも大切です。

給与は低くても「働きがい」がある活動だからとか、社会に役立っている感覚が持てるからと、NPOがそこで「働きがい搾取」をしないように気をつける必要があります。耳ざわりの良い言葉で、相手を惑わせていないでしょうか。自分が惑わされていないでしょうか。

NPOに関わる本人が職員としての働きがい、ボランティアとしてのやりがいを感じることはよいことですが、組織の側から「給与が低くても働きがいがあるよね」などと言うものではないと思っています。「よりよい社会をめざす」と言って活動への参加を募っておいてこのような搾取をしていないか――。NPOのマネジメントに関わる方々にはあらためて、組織のなかを見渡してみてください。

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4月からはパワハラ・セクハラ防止対応が義務に

2020年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、大企業に適用されていました。今年4月からは中小企業にも適用されることとなります。これにより、パワーハラスメント防止対策が義務化され、

  • パワハラに対する組織としての方針の明確化と周知・啓発
  • 相談・苦情への対応整備
  • パワハラ被害にあったスタッフへの対応や再発防止

などに対するシステムを整備することが求められます。罰則規定はありませんが、適切な措置を講じないNPOは人を大切にしない組織という評価をうけ、活動への大きなリスクとなります。

労働施策総合推進法が改正されたのと同時に、女性活躍躍進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法もそれぞれ改正されました。概要については、たとえば厚生労働省東京労働局のこちらのサイトも参考になると思います。東京労働局のサイトですが、厚生労働省の該当するサイトへのリンクも用意されていますので、東京都以外の方も参照できて便利です。

従業員だけでなくボランティアやインターンなどにも同様にパワハラやセクハラ防止の取り組みのなかで保護されるよう、制度を整備するだけでなく、各自が持つ権利についてもしっかり周知をはかっていただきたいと思います。

組織規模が小さいNPOが多いので、いくつかのNPOで集まって勉強会を開いたり、スタッフやボランティアなどに対する合同研修会を実施したりするのもよいと思います。自分たちだけですべてを完結しようとする必要はありません。最終的には組織ごとの事情で細かい規程や周知方法は変わりますが、最大公約数となる部分は「共同開発」して省エネしてよいのです。

正義感という危うさ

あらためて、今年の世界社会正義のテーマは 「貧困と不平等の問題を、正規雇用を通じて社会正義を実現する」でした。多くのNPOが、直接または間接的に社会の貧困や不平等の問題の改善に関する活動に関わっていると思っています。正規雇用を増やしたり確保したりすることはできないNPOもありますが、「正規雇用」を増やせなくても「活動や運営に関わる全ての人の社会正義を実現する」ことをめざすことはできます。

正義感が強いばかりに、休みをとりづらい雰囲気をつくってしまっていたりしていないかなど、つい周囲にパワハラ的な言動をしていないか、見直すところから始めてもいいと思います。

正義感の強さから、市民活動に参加したり活動をスタートさせ、団体を作ったりもする一方で、自分(たち)の正義感で他者を傷つけたり権利を侵害してしまう・・・正義感には、そのような諸刃の剣の要素があることを留意しつつ、職員やボランティア、インターンがみなさんの組織を通じて社会と関わる意味と、関わり方に関して自分たちが果たすべき法的・社会的責任を考えながら、マネジメントに取り組むことが大切です。

(中原)

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