リスク・マネジメント=完成品は手に入らない組織の必需品

先日、オンラインで開催されたBCPやリスク・マネジメントに関するセミナーを視聴しました。

BCPとは「事業継続計画」のことで、たとえば組織が自然災害や火災やシステム障害など、事業の継続に大きな影響を与える事態に直面したときに、損害を最小限に抑えながら事態からの早期復旧と事業を継続させていくかについて、平常時に準備しておく計画をさします。BCPの策定については、コロナ前のものですが、たとえば中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」などが参考になると思います。

上記セミナーで、

  • リーマン・ショック以降、機関投資家がESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク情報を元に投資先を決める傾向が広がった
  • リスク・マネジメント部門はコストセンター(利益を生み出さず、コストとなる部門)ととらえられるが、長い目で見てリスクに備えられることは事業存続の助けになる
  • 気合と根性論ではダメ

などの話をうかがっていて、あらためてリスク・マネジメントやBCPの重要性を認識しただけでなく、CSR(企業との社会的責任)という言葉が日本でも浸透していった2005年前後の流れに共通するものを感じました。当時、CSRとして法律を守ることは当然としても、NPOを支援したり社員のボランティア活動を推進することは必要ないという雰囲気はありました。問題が起きれば「何をしていたんだ」と批判され、うまく行っていても褒められないのがCSR担当部署の悲しいところです。リスク・マネジメントにも、似たようなところがあると思ったのです。

リスク・マネジメントは、NPOにとっても、活動や組織の文化を支える「体幹」を鍛えるものとして、取り組んでほしいと思っていますが、取り組む際には、

  • 詳細な「べからず集」を作ることに一生懸命にならない
  • 最初から完璧なリスク・マネジメント体制を作ろうとしない

の2つに、まずは気を付けていただきたいと思います。

詳細な「べからず集」を作ることに一生懸命にならない

リスク・マネジメントを始めようと思うNPOの多くが「スタッフやボランティア、企画参加者がリスクを発生させないように」と思って、「〇〇はしてはいけない」がたくさんつまったマニュアルやチェックリストなどを作ろうとします。マニュアルなどを作成すること自体は間違ってはいませんし、私もNPOの方のマニュアル作成に関わったりもします。

マニュアルは、その手順をふむことで、誰もが組織としてめざす目標を達成できる「地図」のようなものです。行先とおおまかな行き方が分かるようになっていて、地図の読み方の訓練を受けることで、地図を見なくても目的地に着けるようになるし、万が一迷っても「あの地図のあそこを見ればいい」と、マニュアルの参照すべき場所が分かるようになります。

矛盾だらけ、ザルのようなマニュアルでは困りますが、ある程度の「余白」があるものでかまいません。定期的に見直して、修正していきます。

最初から完璧なリスク・マネジメント体制を作ろうとしない

リスク・マネジメントはNPOにとっての「嗜好品」ではありません。必要不可欠なものです。「気持ち的・業務的余裕ができたら取り組もう」ではなく、今、取り組みましょう。

何から取り組んだらいいのか、そもそも自分たちにはどのようなリスクがあるのかということで、洗い出しのワークショップをお手伝いさせていただくことがあります。優先順位をつけて最初に取り組むリスクを選択したとしても、ときどき、スイッチが入るというか、リスク・マネジメントに一生懸命取り組もうとするあまり「全てのリスクを網羅しよう」とか、取り組むリスクに対して「最初から完璧なものにしよう」とする方がいらっしゃいます。まじめさと熱心さは尊敬するのですが、最初から網羅した完璧なものに仕上げないで大丈夫です。

なぜなら「完璧なもの」は、永遠にできることはないからです。組織を取り巻くリスクの内容やそのリスクが組織に意味するものは刻々と変わります。「想定外」を小さくしてくことは大事ですが、「想定外」はまさに「想定外のところ」にあることが多いので、実際に動き出して初めて見つかるリスクもあります。したがって、ある程度作り上げたら試運転という意味でも実施に移し、そこから軌道修正をかけていくほうが効果的なリスク・マネジメント体制を作り上げることができます。

リスク・マネジメントは「終わらない・終われない・終わらせない」

たとえばコロナ禍でテレワークが増えると、リスク・マネジメントも変わってきます。テレワークのなかでたとえば情報セキュリティや災害時の安否確認をどうするかなど、いろいろ考えないといけないことは常に出てきます。

リスク・マネジメントは、組織のあり方をささえる必需品ですが、決して完成することはないもの、すべてが手に入ることはほとんどないと考えておいて間違いはないでしょう。法制度が変わったり、組織に関わる人が変わったり、社会のニーズや風潮が変わったりすることで、常に軌道修正が必要になります。そういう意味で、リスク・マネジメントは終わることはありませんし、終われませんし、終わらせられないものです。

2021年も半分が過ぎようとするいま、事業の進捗状況など、いろいろ見直すのによいタイミングです。リスク・マネジメントについてもぜひ、チェックする機会としてください。

(中原)