「おかえりモネ」からリスク・マネジメントを考える
NHKの朝ドラ「おかえりモネ」を見るのを楽しみにしています。先週から始まった今回の朝ドラでは、宮城県の気仙沼出身の主人公・百音(ももね。愛称:モネ)が、自分のやりたいことを探して島を出て、祖父の知り合いのサヤカさん(伊達家の血をひく)の家に居候しながら、登米の森林組合の見習いをしていて、最近、正式採用になりました。
山の中で天候が急変!
前日・今日の放送では、小学生たちを連れて山に入っていたところ天候が急変し、急いで山を下りようとしました。ところが、1人の男の子(圭輔)が弟にあげようと前日に作った竹トンボを飛ばしてしまい、取りに行こうと山道を外れて草むらに入って行ってしまいました。そこで、他の小学生と引率の先生、森林組合の課長が先に下山することにし、圭輔くんを連れ戻そうとした百音が本隊とは別行動となりました。2人が後から山を下りようとしたときにさらに天候が悪化、気象予報士の朝岡さんに電話し、今いる山のこれからの天気を予想してもらい、雷雨と雷雨のわずかな間をぬって避難小屋まで移動しました。
しかし、今度は、衣服が濡れてしまった圭輔くんが低体温症になってしまいました。森林組合に併設されている診療所の医師、菅沼さんが低体温症を恐れて百音のスマホに電話し、意識が薄れている圭輔くんへの処置を百音に指示し、圭輔くんは、一命をとりとめました。
「一歩間違えてたら、大変なことになってたんだぞ!」
下山した圭輔くんを迎えに来たお父さんは、圭輔くんを叱ります。「一歩間違えてたら、大変なことになってたんだぞ!」・・・これはよく、リスク・マネジメントのなかで「ヒヤリ・ハット」の説明に使う言葉です。「一歩間違えたら事故や事件になっていたかもしれないなぁ、ヒヤリとした・ハットしたなぁ」という事例です。リスク・マネジメントでよく紹介される「ハインリッヒの法則」では、330件の労働災害は、1件の重い傷害の事故と29件の軽微な傷害の事故、そして300件の無傷の事故(=ヒヤリ・ハット)に分けられたという分析です。そこから、300件のヒヤリ・ハットから、その先の30件の事故につながる「リスクの芽」を特定し、対策をしましょうというわけです。
圭輔くんは低体温症になりましたし、下山の途中で足を痛めたので「何事もなかった」とは言い切れません。
圭輔くんのお父さんから「あなたのおかげで助かりました」と言われた百音に、菅沼医師が声をかけます。そして、「森林組合の一員としてガイドとして加わっているのなら、あなたが半人前かどうかは関係ない。何かあれば責任が生じます。ちゃんとプロになってください」など、厳しい言葉を投げかけます。たしかに、もし圭輔くんが亡くなったり大けが、あるいは後遺症などが残る結果になったりなど、場合によっては業務上過失致死傷罪といった刑法上の責任や不法行為による賠償責任などに問われる事態に発展する可能性もあります。百音にはプログラム参加者を無事に帰す責任があるのです。
あなたが森林組合の職員なら・・・?
もしあなたが百音なら、あるいは森林組合のスタッフなら、このあとどうしますか?百音あるいは同行した課長は、業務日報は書くと思いますが、事故報告書は必要でしょうか?
- 大事に至らなかったから、事故報告書は必要ない
- 何らかの報告書は必要だが、子どもは無事だった。ヒヤリ・ハットとして事故報告書は必要ない。
- いや、実際に小学生は足を怪我し、低体温症になった。事故と考えて、事故報告書は必要だ
人命にもかかわることなので事故報告書必要だと思う人が多いかもしれません。ただ、実際に自分が当事者になってみると、つい「大事に至らなくてよかったじゃないか」ですませたくなってしまう人もいるように思います。こういう「内から見るか外から見るか」の差も、見逃してはいけない大事な信用や法的な問題に関わるリスクだったりします。
「これから再発防止に努める」と、森林組合が活動している山の持ち主で、百音が居候している家のサヤカさんは、圭輔くんたち小学生の保護者の前でも宣言しました。ここは何らかの形で記録に残すだけでなく、再発防止策を話し合う(あるいは確認する)ことが必要かと思います。
何がヒヤリ・ハットなのか、どこまでがヒヤリ・ハットでどこからが事故なのか、NPOでも迷う方は多いようです。同じ組織のなかで人によって判断が違ってしまうと、事故への心構えも異なってしまいますし、報告されることとされないことのばらつきもおきます。基準が明確で、内容も過不足なく報告できるよう、ルールや書式、そして記入の研修もしておく方がいいですね。
楽しめている・・・?
森林組合は、ほかに何かすべき/できることがあるでしょうか?
- 百音は正式採用したが、再教育が必要ではないか
- 山の天候が変わりやすい。山の天気や避難、報告の手順を見直して全職員対象の研修をしよう
- 採用前の教育プログラムを見直そう
などなど・・・。
これをきっかけに、森林組合でさまざまな見直しがされるかもしれません。
1日15分の朝ドラのワンシーンで、そこまでリスク・マネジメントに寄せて考えられるものですかね?リスク・マネジメントの話をここまで膨らましてしまうなんて、ストーリー楽しめていますか?
・・・と、思われる方もいらっしゃるかもしれません。職業病でしょうか!?(笑)
ストーリーは楽しんでいます。大丈夫です。ただ、リスク・マネジメントに限らず、なにか自分の関心事と関係ありそうな「フック」(ひっかかりどころ)を見つけてしまうと、つい連想(妄想?)に走ることはあります。ストーリー自体と、さらにその先というかウラというか別のものも楽しめるので「一粒で二度おいしい」と思っています。
リスク・マネジメントはとくに、このような「とっかかり」があちこちに転がっています。すべてそれをトピックにしてしまうとうるさがられると思いますが(笑)、適度にNPOの仲間どうしや、防災だったら家族とも、話のきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
山の中で天候が急変!
前日・今日の放送では、小学生たちを連れて山に入っていたところ天候が急変し、急いで山を下りようとしました。ところが、1人の男の子(圭輔)が弟にあげようと前日に作った竹トンボを飛ばしてしまい、取りに行こうと山道を外れて草むらに入って行ってしまいました。そこで、他の小学生と引率の先生、森林組合の課長が先に下山することにし、圭輔くんを連れ戻そうとした百音が本隊とは別行動となりました。2人が後から山を下りようとしたときにさらに天候が悪化、気象予報士の朝岡さんに電話し、今いる山のこれからの天気を予想してもらい、雷雨と雷雨のわずかな間をぬって避難小屋まで移動しました。
しかし、今度は、衣服が濡れてしまった圭輔くんが低体温症になってしまいました。森林組合に併設されている診療所の医師、菅沼さんが低体温症を恐れて百音のスマホに電話し、意識が薄れている圭輔くんへの処置を百音に指示し、圭輔くんは、一命をとりとめました。
「一歩間違えてたら、大変なことになってたんだぞ!」
下山した圭輔くんを迎えに来たお父さんは、圭輔くんを叱ります。「一歩間違えてたら、大変なことになってたんだぞ!」・・・これはよく、リスク・マネジメントのなかで「ヒヤリ・ハット」の説明に使う言葉です。「一歩間違えたら事故や事件になっていたかもしれないなぁ、ヒヤリとした・ハットしたなぁ」という事例です。リスク・マネジメントでよく紹介される「ハインリッヒの法則」では、330件の労働災害は、1つの重い傷害の事故と29の軽微な傷害の事故、そして300の無傷の事故(=ヒヤリ・ハット)に分けられたという分析です。そこから、300のヒヤリ・ハットから、その先の30の事故につながる「リスクの芽」を特定し、対策をしましょうというわけです。
実際は、圭輔くんは低体温症になりましたし、下山の途中で足を痛めたので「何事もなかった」とは言い切れません。
圭輔くんのお父さんから「あなたのおかげで助かりました」と言われた百音に、菅沼医師が声をかけます。そして、「森林組合の一員としてガイドとして加わっているのなら、あなたが半人前かどうかは関係ない。何かあれば責任が生じます。ちゃんとプロになってください」など、厳しい言葉を投げかけます。たしかに、もし圭輔くんが亡くなったり大けが、あるいは後遺症などが残る結果になったりなど、場合によっては業務上過失致死傷罪といった刑法上の責任や不法行為による賠償責任などに問われる事態に発展する可能性もあります。百音にはプログラム参加者を無事に帰す責任があるのです。
あなたが森林組合の職員なら・・・?
もしあなたが百音なら、あるいは森林組合のスタッフなら、このあとどうしますか?百音あるいは同行した課長は、業務日報は書くと思いますが、事故報告書は必要でしょうか?
- 大事に至らなかったから、事故報告書は必要ない
- 何らかの報告書は必要だが、子どもは無事だった。ヒヤリ・ハットとして事故報告書は必要ない。
- いや、実際に小学生は足を怪我し、低体温症になった。事故と考えて、事故報告書は必要だ
人命にもかかわることなので事故報告書必要ではないかと思う人が多いかもしれません。ただ、実際に自分が当事者になってみると、つい「大事に至らなくてよかったじゃないか」ですませたくなってしまう人もいるように思います。こういう「内から見るか外から見るか」の差も、見逃してはいけない大事な信用や法的な問題に関わるリスクだったりします。
「これから再発防止に努める」と、森林組合が活動している山の持ち主で、百音が居候している家のサヤカさんは、圭輔くんたち小学生の保護者の前でも宣言しました。ここは何らかの形で記録に残すだけでなく、再発防止策を話し合う(あるいは確認する)ことが必要かと思います。
何がヒヤリ・ハットなのか、どこまでがヒヤリ・ハットでどこからが事故なのか、NPOでも迷う方は多いようです。同じ組織のなかで人によって判断が違ってしまうと、事故への心構えも異なってしまいますし、報告されることとされないことのばらつきもおきます。基準が明確で、内容も過不足なく報告できるよう、ルールや書式、そして記入の研修もしておく方がいいですね。
楽しめている・・・?
森林組合は、ほかに何かすべき/できることがあるでしょうか?
- 百音は正式採用したが、再教育が必要ではないか
- 山の天候が変わりやすい。山の天気や避難、報告の手順を見直して全職員対象の研修をしよう
- 採用前の教育プログラムを見直そう
などなど・・・。
これをきっかけに、森林組合でさまざまな見直しがされるかもしれません。
1日15分の朝ドラのワンシーンで、そこまでリスク・マネジメントに寄せて考えられるものですかね?リスク・マネジメントの話をここまで膨らましてしまうなんて、ストーリー楽しめていますか?
・・・と、思われる方もいらっしゃるかもしれません。職業病でしょうか!?(笑)
ストーリーは楽しんでいます。大丈夫です。ただ、リスク・マネジメントに限らず、なにか自分の関心事と関係ありそうな「フック」(ひっかかりどころ)を見つけてしまうと、つい連想(妄想?)に走ることはあります。ストーリー自体と、さらにその先というかウラというか別のものも楽しめるので「一粒で二度おいしい」と思っています。
リスク・マネジメントはとくに、このような「とっかかり」があちこちに転がっています。すべてそれをトピックにしてしまうとうるさがられると思いますが(笑)、適度にNPOの仲間どうしや、防災だったら家族とも、話のきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
(中原)