ピーターラビット作者は「活動家」だった?

Peter Rabbit 120th BD

先日、世田谷美術館で「ピーターラビット展」を観てきました。

ピーターラビットといえば、冒険が好きでちょっとやんちゃな、青いジャケットを着たウサギのキャラクターとして世界中で愛されています。

ピーターラビットのお話の本が印刷されてから120年を祝う展覧会として、作者であるビアトリクス・ポターが残した数々のデッサンやイラスト、手紙、そしてピーターラビットのバージョンの異なる本や翻訳本、さまざまなグッズなどが展示されていました。また、会場内いくつかのスポットでは写真撮影可能で、絵本から飛び出てきたようなピーターたちがいました。

私が持っているピーターラビットシリーズはThe Tale of Peter Rabbit(Amazonのサイトへ飛びます)(『ピーターラビットのおはなし』)の1冊だけのような気がします。ノートなどグッズは使ったことがありますし、シールなどのグッズも持っていますが、本は、おそらく中学のときに「英語の本を読もう」と買ったのだと思います。

展示で数々のイラストやデッサンをみながら作品を楽しんだり自分が小さかった頃を思い出したりしました。また、ピーターラビットのストーリーの細かい部分を思い出したり新たに知ったりしたのと同時に、ビアトリクス・ポターのことをいろいろ学んで驚きました。絵本の出版やグッズ展開などの積極的な働きかけという起業家・実業家としての面だけでなく、キノコや菌の研究をしたことや、自然を守るというビアトリクスの強い想いと活動などです。(図録を参照してはいますが、一部は会場で見たものの記憶を頼りに書きますので、記憶違いなどがあれば分かり次第、訂正します。)

男性優位の学会に見切りをつける?

ビアトリクスは決してフェミニストと意識していたわけではないと思います。ただ、今回の展示で、彼女が31歳のときにロンドンの植物学会に学術論文を送ったのですが、学問の世界で女性が認められないと排除され、絵本作家としての道を歩き始めたそうです。なお、彼女が独自の研究でまとめた研究は、のちに正しかったことが後に別の学者によっても証明されたとのことです。

この経験の後、ピーターラビットの話を出版社に売り込みます。ピーターラビットの話は、ビアトリクスのかつての家庭教師で年も近かったアニーやアニーの子どもたちにあてたから生まれています。その手書きのお話と挿絵は、紙を折って重ねて冊子のようにしてつづられていました。手書きの部分は私には読みにくい部分もありましたが、これを受け取ったらワクワクすると思います。

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慈善団体のグリーティングカードをデザイン

ビアトリクスは、1924年から1941年にかけて、慈善団体ICAA(疾病児童援助協会)のチャリティ用グリーティングカードのデザインをてがけました。父親の主治医の依頼から始まったそうですが彼女がこの世を去る2年前まで、20年近く続きました。ピーターラビットのようなウサギが登場することもあれば、別の雰囲気のウサギや他の動物が出てくることもあります。小さい絵ですが、細部にわたり気を抜くことのなく描かれた、細かいながら温かい雰囲気のイラストは、毎年楽しみにしていた人が多かったのではないでしょうか。

湖水地方の自然を守るために尽力

ビアトリクスは16歳のときに滞在した湖水地方で、自然保護活動について話を聞いたそうです。1912年、46歳のときには湖水地方での湖への水上飛行機乗り入れ計画への抗議運動を行なったり、この地域の農場主になったり、開発業者がこの地域の土地を買わないよう、イラストを制作して販売して土地を購入する資金を調達したりしました。自身の死後は、土地や建物がナショナル・トラストに寄贈されました。

そのおかげで、湖水地方ではピーターラビットたちが走り回る姿を今でも想像できるだけでなく、現実世界としても、豊かな自然や生態系が保護されることとなったのだそうです。

ビアトリクスは、湖水地方の風景や環境が、本当に好きだったのでしょう。だからこそ、土地を守るために自分の作品を通じて資金を得たりもしましたし、最後はナショナル・トラストへ寄贈し、自分の死後も開発されて環境が破壊されてしまうことを防ごうとしました。いたずらなピーターは人間のマクレガーさんといつもやりあっていますし、ピーターのお父さんはパイにされてしまいましたが、現実世界でピーターたちの環境を守ってくれたのは、ピーターに命を吹き込んだ人間(ビアトリクス)でした。思いを形にするために動くという点で、彼女は「活動家」だと思います。みなさんは、そして私は、どのような社会や風景、記憶を後世に残したいでしょうか。そのために、何をしているでしょう。

ところで、ピーターたちが動き回っているイラストを見ているうちに「鳥獣戯画」や葛飾北斎の「北斎漫画」を思い出しました。北斎は、人間や動植物の絵手本として何冊もの「北斎漫画」を出しています。ほかにも、浮世絵には動物たちが、とくにはコミカルに擬人化されて描かれています。そんなことを思いながら展示会場を出ると、グッズ売り場で「Peter Rabbit Meets 鳥獣戯画」というシリーズの、マグカップや手ぬぐいなどのグッズを発見。心を先回りして読まれている気がしました(笑) ウサギが猿を追いかけている鳥獣戯画の絵のなかにピーターを見て、思わずクリアファイルを買ってしまいました。自宅にはクリアファイルが何百枚もあるのでなるべく買わないようにしているのですが、鳥獣戯画も大好きなので、これはもう抗いようがありませんでした。ピーターラビットの日本公式サイトによると、昨年発売されたシリーズとのことです。

「ピーターラビット展」は、世田谷美術館では6月19日(日)までの開催です。週末は日時指定予約券を入手する必要があります。私は平日昼間に行き、それほど混雑していませんでしたが、終了間際は混むかもしれません。東京のあとは大阪そして静岡で開催されるとのことです。

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(中原)