書籍『リスク心理学』

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今回は、ゴールデンウィーク中に読んだ本を紹介したいと思います。

中谷内一也著『リスク心理学』筑摩書房、2021年
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リスク・マネジメントや非営利組織のマネジメントそのものについて述べた本ではありません。人がリスクに対してどのように(ときに誤って)認識し反応するのかについて、リスク心理学の角度から解説する本です。

リスクのとらえ方(リスク認知)

この本は、新型コロナウイルスや災害、事故、食品の安全性などに関する人々のリスク認識がどのように構成されるのか理解するのに役立つと思います。新書で文章も読みやすく、心理学用語は出てきますが用語自体は覚えなくてもリスクへの人間の反応について理解できるように説明されています。

冒頭で述べたように、この本は組織のリスク・マネジメントの手法を記した本ではありません。しかし「人間のリスクのとらえ方」(リスク認知)を知ることは、非営利組織のリスク・マネジメントでも、たとえば自分たち自身だけでなく、社会的に、外部の人たちがみなさんの組織そのもの、あるいは組織がとりくむ活動について、どのように感じたりするかについて、感じられるヒントもあると思います。

たとえば、リスクが発生する頻度や発生したときの影響が、統計など数値化されていても、リスク認知は突出した印象を与えたり最近おきたりした事例にひっぱられたりします。このことを知っていると、組織に関するリスクを考える際に、一人一人、あるいは全体的な社会の傾向として見落としたり軽視したり、逆に過剰反応にも思えるようなリスクのとらえ方をするのか考える糸口が見つけやすいかもしれません。

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リスク・マネジメントの「傾向と対策」

著者が「おわりに」で述べているように「人の判断や意思決定のクセを理解したうえで、リスクを低減する行動をしやすいよう、環境を設計することの方が有意義」です。NPOが関わる領域について、社会的に偏見があったり、1つの組織(非営利組織とは限りません)が起こした不祥事で、みなさんが関わるNPOも批判や中傷のターゲットになったりすることがあります。たとえば、特定の目的をもった施設が近所にできることへの拒否や、街頭募金など寄付金の詐欺や横領、利用者への暴行などです。不祥事に関しては、自分たちはまったく関係ないのに「お前のところもきっとやっているんだろう」と言われたりすることで、実際に寄付が集まらなくなるなど活動に支障が生じ、外部とのコミュニケーションに関わるスタッフが精神的にダメージを受けたりします。自分たちが不祥事の当事者組織になった場合は、対応や再発防止などのために、さらに活動に影響が出ます。

リスクへの考え方に限らず、ものごとのとらえ方は、一人一人異なります。それでも、たとえば脳の働きの傾向を少しでも知っていれば、個人差はあっても「人間の脳の機能」の側面から人の考え方や言動を理解しやすくなります。そうすれば、何をどのように説明する方がよいのか、あるいはリスクの発生や影響を防ぐためにどのような措置や「しかけ」をするとより有効かについて、ヒントや糸口が見つかるかもしれません。

単純に「このリスクにはこの手法がいいらしい」と、あてはめるだけでは、自分たちにはうまくいかないこともあります。安易なハウツーを追いかけるのではなく、その手法の背景にある考え方を理解するしようとすることは、リスク・マネジメントの傾向と対策としては回り道のようで、実際は「より有効な」道だと、この本を読みながら、あらためて思ったのでした。

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(中原)

注: NPOリスク・マネジメント・オフィスは、この本に書かれている内容を保証する立場にはありません。この本をお読みになるか、また参考になさるかは、ご自身の判断でお願いします。