見てるのに、見えない?

前回の投稿、共感の難しさについてふれました。共感の世界が広がることはすばらしく、共感はNPOへの支援に大切な要素だと思います。ただし、他者に共感することが得意でない人もいますし、共感でのつながりにあまり重きをおきすぎてしまうと、共感でつながる人とそうではない人の間に溝ができるといいますか、共感の陰に排除がある気がして、危うさを感じています。NPOが、自分たちを自ら社会的に排除してしまう恐れがあるのではないかと思ってしまうのです。NPOにとって、活動への支援・参加者を増やし「こんな社会になったらいいな」と思う社会を実現するには、重要な問題です。自分たちの活動の目的を達成できるかどうかのリスクとチャンスが、共感という光が強いほど、排除の影が作られないように努力する必要があると思います。

カクテルパーティ効果

私たちは、周りに同時に存在するさまざまな情報から、自分自身のことや自分が関心あったり重要だと思っている情報を知らないうちに選んで受け取ることがあります。これを、心理学では「選択的注意」と言います。「カクテルパーティ効果」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは選択的注意の一例で、パーティの会場で参加者がさまざまな場所でにぎやかに会話をしているのに、ふとある言葉だけが切り取られたように聞こえてくる現象です。

先日バスが来るのを待っていたら、少し後ろで「SDGs」という言葉がいきなり聞こえました。声が聞こえた方を見ると、女性が3人集まっていて、

「最近SDGsってよく聞くよね~」
「なんかさぁ、エコみたいなことでしょ?」
「そうそう」

という会話をしていました。この理解が適切かはともかく、私がSDGsに関心がなかったり、そもそもその用語を聞いたこともなければ、まったくこの会話を気にもとめなかったと思います。

このように、関心があることの情報は、どんどん入ってきます。裏返せば、認識もしていないことに関する情報は、受け止められることなくどんどん流れてスルーされていくということです。気にもとめていないことに急に気づくこともあるので、NPOはそのために情報発信や活動を続けることは重要です。しかし、その一方で、自分たちの活動への参加・支援者を増やすには、今まで自分たちとはまったく「すれ違うこと」もなかった人たちにも自分たちの存在を知ってもらう必要があるのです。

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白いTシャツを着た人たちがパスしたのは何回?

黒いTシャツと白いTシャツを着た若者たちが入り混じりながら、同じ色のTシャツを着た人にバスケットボールをパスしていくビデオを見て、白Tシャツ組がパスした回数を数える、という実験があります。実際のパスをしている動画は、こちらです。全部で1分半弱のビデオです。

selective attention test  (YouTubeの動画へのリンクです。)
日本語を選択して字幕を付けることができます。

ビデオの最後に、白T組がパスした回数を訊ねられ、正解が表示されます。しかし、それでは終わりません。

その後に続く質問に驚く人がいると思います。

(あえてスペースを少し多めに取ります)

この動画のタイトルは「selective attention test(選択的注意に関する実験)」となっていますが、「見えないゴリラ」として知られる実験です。タイトルを見たらもう「どこかでゴリラが出てくるんだな」と思ってしまうのでゴリラ(の着ぐるみを着た人間)に気づいてしまうと思いますが、ゴリラのことを知らずに一生懸命白T組のパスの回数を数えていた被験者の約半数が、ゴリラに気づかなかったそうです。

このテストには「別バージョン」もあります。いずれのテストにしても、注意していない情報はスルーしてしまうのは、人間の認知機能のひとつだと教えてくれます。

見えぬなら、見させてみせよう?

ふだんよく一緒にイベントや活動をしている団体や個人の顔ぶれが偏っているなと感じたら、みなさんの活動や考え方は、あまり広まっていないかもしれません。その協力相手の関係者はすでにみなさんが活動するNPOのことを知っている可能性は高いですし、それどころかすでに関係者だったりするかもしれないからです。ここで、みなさんが活動するNPOが、活動への協力・参加者を増やしたいなら、ふだんとは異なる組織や個人と何か一緒にプロジェクトを実施することを検討してみてください。

コラボレーションのリスクに備える必要があるので、相手の団体などの倫理観や評判を調べたり、実際に団体関係者に会って話してみたりすることは大切ですが、致命的な点で相容れないということでなければ、一度ゆるやかなコラボレーションをしてみてはいかがでしょうか。お互いの活動の支援者や協力者が重なっていない方が、お互いに仲間を増やせるチャンスが生まれます。意外な組み合わせは、面白くてワクワクする、思いもよらない結果を生むかもしれませんし、まわりも話題にします。そうすれば、みなさんが関わるNPOや活動にカクテルパーティ効果をもたらすチャンスも増えるかもしれません。

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「共感」を示すのは、みなさんのほう

どのような方法をとるにしろ、仲間を増やすなら、それだけ「共通項」が減ります。共感できる範囲が減るのです。仲間を増やすなら、敷居は低くする必要があります。コミュニケーションの手間は増えます。敷居を低くした分、入ってきた人を受け入れた団体の責任やリスクは増えます。そのうえ、トラブルや事故が発生すれば、団体としての法的責任を負う可能性もあります。それでも、みなさんの活動のめざすことを、多くの人たちと達成できるチャンスが増やせるなら、リスク・マネジメントに取り組む価値はあります。

たしかに、ボランティアや寄付者、プログラム参加者やスタッフなどの形で関わってくるのは、NPOの理念や活動に賛同した人です。しかし、その人たちは、みなさんの団体に参加することで達成したいことが何かあるのではないでしょうか。「共感」を、つながるための大切な要素と考えるなら「相手が自分に合わせられるか」ではなく「自分が相手の考え方に共感したり、相手のめざすことを提供できるか」という軸をもってほしいと思います。

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(中原)