ブラックエレファントの影をみつけよう

東京はまた緊急事態宣言が発令されました。私は基本的に在宅での仕事を続けていますが、先日久しぶりにオンラインではなく会場におうかがいしての研修を担当させていただきました。内部研修でオンラインとオフラインのハイブリッドでしたので、ZOOMでつないではいましたし、アクリル板ごしにみなさんとお話するので歩き回ることもできませんでしたが、同時に何人かの方が発言しても聞き取れて休憩時間に同じお菓子をいただくのは嬉しいものでした。移動の公共交通機関も大した混雑もなくホッとしました。コロナ禍前とは異なり、公共交通機関を使うことに緊張するようになった気がします。

離れて仕事をしていることが多いと、自分や他の人のミスに気づきにくかったり、在宅勤務が続き、出勤しても人はまばらで、ずいぶん長い間直接顔を合わせていない人がいる、自分が関わっている業務以外の人とはオンラインでもコミュニケーションをとることがない・・・という状況だと、なかなかお互いが何をしているのか見えにくかったり、お昼休みや休憩時間、仕事中でもちょっとした会話や雑談からお互いの状況を思いやったり仕事の進め方の確認をしたり新しいアイデアが生まれたりといったことが起こりにくくなっているかもしれません。

お互いが何をしているか見えにくいとか、ちょっとした相談がしにくいなどの状況は、リスク・マネジメントから見ると「リスクの芽」がつみ取りにくくなっているということだと感じます。

ブラックエレファントとは

「ブラックエレファント」という言葉をご存知でしょうか。「ブラック・スワン」(黒鳥。希少なもの、あり得ないと思っていたことが起きることという意味)と「エレファント・イン・ザ・ルーム」(部屋の中にいる象。みな認識しているのに、そのことに触れないこと)という英語表現を掛け合わせた言葉です。イミダスによると:

いずれ大変なことになるとわかっているのに、なぜか見て見ぬふりで、誰も対処しようとしない脅威。“black swan”(ブラック・スワン 突如として出現する想定外の事態)と、“elephant in the room”(エレファント・イン・ザ・ルーム 誰もが気づく異常事態)をかけ合わせた語。具体的には、気候変動による平均気温の上昇や海水の酸性化、海面上昇による都市の水没などを指す。
(imidas https://imidas.jp/america/detail/B-02-L-025-15.html)

という意味です。「このまま放置していたら、そのうち事故につながるんじゃないかな」と思ってもそのままにしておいて、いつか取り返しのつかない状態になるかもしれないということです。

これは、テレワークや時差・分散出勤が続く組織には、とくに大きな問題だと思います。気軽に・簡単に他の人とコミュニケーションが取れるときには、ちょっとした心配事や疑問を他の人と共有して「対応しておこうか」ということになったりします。お互いにお互いを助け合いながら、細かな軌道修正を通じてできるリスク・マネジメントもあります。

しかしテレワークになり、必要なことだけ効率的に情報共有していくスタイルになると、誰かの小さな疑問や気づきが共有されにくくなります。ITサービスなどを使って少しでもコミュニケーションや情報共有を円滑に進めようとされているNPOの方も多いと思います。ただ、これだけでは、どうしても把握しきれない・感じ取れないことが出てきます。だからといって、コロナ感染拡大防止の対策としてのテレワーク等を否定するわけではありません。リスク・マネジメントにおいて、あるリスクへの対策が他のリスクには作用しないことはよくあることで、このような両立しない状態(トレードオフ)があるということを意識していただければよいと思います。

複数の人が「これでいいのかな」と思いながらも誰ともそのことについて共有せず・対応せずにいて「大変なこと」が起きてしまわないようにする必要があります。たまに出勤して顔を合わせることがあっても、直接会えるときに確認しておきたいこと・進めておきたいことはたくさんあります。「ちょっとしたこと」を話す間もなく、またテレワークに戻ります。マスクをしていても、誰かの近くに寄って行って「ちょっといい?」と話すことを躊躇するかもしれません。

ブラックエレファントをつかまえろ

こういう時期だからこそ、ときにはオンラインでも直接会ったときにでも「雑談タイム」を仕事の一部としてもうけてみてほしいと思います。個人面談の時間でもかまわないのですが、そうすると組織の管理職やリーダーとスタッフという関係でのみのことになってしまいます。(それが適切なプライバシー等に関わる場合は別として)1対1ではなく小グループで「最近どう?」から始まってもいいので、ブラックエレファントを見つけて対処する機会を作る努力が必要です。会議の最後の10分でも、そういう時間を作ってブラックエレファントの影をとらえて、トラブルや事故を未然に防いでほしいと思います。

会議が終わった「後」に追加で10分残るとなると、「雑談につき合わないといけないのか」とか「次の打ち合わせがあるのに」と思ってしまう人も出てきます。なかには「退室」する人も出てくるかもしれません。そうではなくて、これは必要な業務や活動の一部であることを示すために「会議の時間のなかに」含めるようにします。あくまでも雑談としてリラックスして話せる雰囲気がいいので、「みなさんからご意見を・・・」と進めない方がいいです。話を脱線させすぎず、フリースタイルで話す。なかなか難しいのですが、アイスブレーキングはワークショップやイベントを元々多く経験している方が多いNPOのみなさんなら、できると思います。

リスクに関することだけでなく、コミュニケーションの不足を補い、お互いの活動や状況をサポートし合うためにしている工夫があったら、ぜひ、教えていたただきたいです。

最後に。全国的に気温も上がってきましたので、熱中症、脱水症状などには十分注意しましょう。経口補水液を1本でも常備しておくか、作り方がインターネット上にもいろいろ紹介されていますので、すぐに見られるようにブックマークしたり印刷したりして冷蔵庫のそばなど紛失しにくく出しやすいところに保管したり貼ったりしておいてみてはどうでしょう。「経口補水液 作り方」などで簡単に検索できます。ただし、糖尿病など一部疾患がある方は注意が必要なので、かかりつけ医などにご相談ください。

(中原)