「伝え方」を見直す

sheep communication

日の今日から3連休という方も多いかもしれません。昨日は首都圏でも雪が降り、当初の予定よりは降雪量・積雪量が少なかったようですが、それでも積もった場所にいらっしゃるみなさんは、足元にお気をつけください。

前回「恵方巻と食品ロス」という記事を書きました。今年の恵方巻のロスはどうだったのだろうと思い、情報をインターネットで検索してみたのですが、「2019年や2020年と比べると減っているが、2021年からは増えている」という記事と、ロスは削減されているという記事がありました。判断に迷うところです。

リスクコミュニケーションとコミュニケーションにおけるリスク

「リスクコミュニケーション」という言葉があります。あるリスクに関して個人や組織やチーム、コミュニティなど多様な行動の主体間の双方・多方向な情報・意見交換の過程」のことです。リスクコミュニケーションは、リスクが発生したときに対処するためのコミュニケーションというよりは、どちらかというと平時にあるリスクやそのリスクへの対応についての情報や意見をやりとりしながらお互いの理解と信頼を高めることを目的にしています。事故などが発生した緊急時のコミュニケーションは「クラシスコミュニケーション」と呼ばれることもあります。

ただ、リスク・マネジメント講座やマネジメント支援のときにもNPOのみなさんによくお伝えするのですが、リスクに関する情報や意見だけをスムーズに個人や集団間で共有できたり誤解なく伝達できるということは、まず考えられません。日ごろのコミュニケーションのあり方がとても大切です。その点で、リスクコミュニケーションを考える際には、まず誤解や誤った伝達や“詰まり”などがおきないよう、「ミスコミュニケーションが発生するコミュニケーションにおけるリスク」をとらえ、対処していくことが重要です。

ボランティア活動や市民活動での、さまざまなミスコミュニケーションは、これをお読みくださっている方々で思いうかぶ事例も多くあるかもしれません。説明したのとは違う作業の手順をしているスタッフや、「危険だからあっちへは入らないで」と伝えていたエリアに入り込んでいるイベント参加者がいた、「15分後に」と伝えたつもりが「○時15分に」だと思われていた・・・などです。命などの危険に及ぶものもあれば、そこまではいかないものまで、リスクがもたらす損失もさまざまです。

このようなミスコミュニケーションがおきる原因や、そのリスクが発生する確率、そしてそのリスクによる損失は、その団体の普段のありかたや、関わる人々の属性等によって異なります。情報の送り手と受け手の間の世代(年齢)や経験値、性格やそれまですごしてきた環境の違い、コミュニケーションの際の状況(騒がしかった、残された手書きのメモが悪筆だった、印字された文字が小さすぎたなど)、分からなくなったときに重要な情報は見返せるよう、紙媒体でも電子文書でも体系だって検索しやすい整理がなされているかどうかなど、検討する点は多くあります。

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まちで見かけた「あれ?」なメッセージ

今回このことを話題にしようと思ったのは、ちょっと前に外出した際に入ったある施設のトイレでの掲示が目に留まったことを思い出したからです。この経験自体はNPOの活動におけるコミュニケーションとはまったく関係ないのですが、共有させてください。

そのトイレでは、このような掲示が貼られていました。

大量の紙を流すとつまりますので、ご協力をお願いします。

「大量の紙を流してつまるよう、協力してくれということ?」と、私は一瞬思考が止まりました。

文脈からすぐに「そうではないな」と思い直しました。このメッセージが伝えたいことは、まわりくどい言い方をするならば「大量の紙を流すとトイレがつまるので、つまらないように、大量の紙を流さないよう、ご協力をお願いします」ということだと思います。しかし、本当に全員がすぐにそう思えるかどうか。さまざまな人がこの掲示を見ると、その受け取り方もさまざまです。この場合、

トイレがつまりますので、大量の紙を流さないよう、ご協力をお願いします

あるいは、もっとシンプルに

トイレがつまりますので、大量の紙を流さないでください

と書く方が、誤解や迷いは減らせるのではないでしょうか。とはいえ「大量ってどのくらい?」という疑問は残ります。

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形容詞や副詞が難しい

上記のような文章の構造だけでなく、程度や頻度を表す形容詞や副詞は、人によってとらえ方が異なるので、相互に考えていることをすりあわせていかないと、意図する効果や結果が達成できない恐れが大きくなります。たとえばスタッフAさんがボランティアBさんにパソコンで文書の作成をお願いするときに「データが飛んじゃうと困るから、ときどき文書を保存しながら作業してね」と伝えておいたものの(自動保存されている分はあるかもしれませんが)データが飛んでしまったとします。そこでAさんがBさんに「保存しながら作業してねと伝えたよね?」と訊いてみるとBさんが「午前から作業をはじめてお昼休み前に一度保存すればいいかなと思ってました」と答えたとします。Aさんは「せめて1時間に1回は、保存するだろうと思っていた」・・・という認識のギャップに驚く経験は、大なり小なり多くの方が経験されているのではないでしょうか。Aさんは「ときどきってどのくらいか訊いてくれればいいのに」とか「そんなんじゃ“ときどき”じゃないでしょ」と思い、逆にBさんは「ときどきなんて曖昧なこと言わないで、1時間に1回って言ってくれればいいのに」と思うかもしれません。

ほかにも「定期的に、適度に、速やかに、ちゃんと、丁寧に、十分に、きれいに、簡単に、多く、少なく、はっきり」などの、程度を表す言葉を、私たちは日常でもよく使います。私も一般化してお話する研修では「定期的にリスクを見直しましょう」とお伝えします。「最低でも1年に1回は」と付け加えますが、これはあくまでも全体的なリスク・マネジメントを定期的に実施するときの一般的な提案で、新たな方法を試しているときには3カ月や半年で見直すかもしれませんし、次の定期的な見直しまで待たずに見直す必要が出てくることもあります。すべては、さまざまな環境や取り組むリスクに応じて判断されるべきものです。

カギは「一手間かける」

どれほど気をつけていても、ミスコミュニケーションは起きてしまいます。NPOの活動において、人によって判断や手順で誤解を避けるために、マニュアルやチェックリストなどの方法は有効です。しかし、すべてを細かく決めて、マニュアルなどに落とし込むのは、現実的とは言えません。現場でマニュアルがないと何もできなくなってしまいますし、マニュアルも書いてある量が多すぎて、参照しにくくなります。変更が頻繁に起きたら、全員が最新版のマニュアルを手元に置いて作業しているかあやふやになったりもします。

めんどくさく感じても、お互いの認識のズレがないか確認したり、具体的あるいは目安となる程度を伝えたりするなどの「一手間をかける」ことが、円滑なコミュニケーションのカギとなります。事前に一手間をかけることで、のちのちのズレの修正にかける手間を少なくすることができます。また、日常でこのようなコミュニケーションの一手間をかけることが習慣化することが、事故やトラブルのリスクへの対処にもつながります。日ごろできていないことが緊急時にはできる奇跡を夢見るよりは、確実に取り組みを積み上げる方がよいです。そのためには、一歩ひいて自分が相手への伝え方はどうだろうか、いま自分たちが使っているマニュアルの書かれ方はどうだろうか・・・と、見直しをしてみてはいかがでしょうか。

(中原)

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